Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “Sweet fangs” 〜たとえばこんな明日はいかが?
 


待ち合わせたのはスポーツ・バー。
野球にサッカー、アメフトまでと、主には球技のフリークが集まる店で、
W杯やオリンピックのA代表のゲームにだけ盛り上がる、
にわかファンは締め出し喰らう、
結構 由緒正しいカラーのスタンドバーなんだけど、

「…未成年をカウンター席へ座らせてんじゃねぇよ。」
「いいでしょ、別に。」

アルコール飲料は出してないですってと、
雇われマスターの銀髪が苦笑する。
盛り上がるシーズンは客を選ぶクセして、
そうでない頃合いは閑古鳥が鳴くのが癪だからと。
人の連れを“客寄せパンダ”扱いしやがる。

「客寄せパンダ?」
「昔はパンダでも十分、物珍しいからってんで人が寄って来たんだよ。」

早い話が客集めの看板代わりの珍獣のこと。
そういう扱いをすることをそうと言うのだと説明すれば、
ムッと唇曲げたそのまま、

「むかつく。帰ろうぜ、ルイ。」
「待て待て、待たんか。」

止まり木からひょいと、身軽に飛び降りる痩躯を腕の中へと捕まえて、

「ケーブルテレビの取材があるとか言ってなかったか?」
「………ある。」

後見というか、保護者代理で付き合えと、
そんなメールを寄越したからわざわざ来たってのによ。
待ち合わせてるクルーがそろそろ来んだろに、
敵前逃亡かよ、尻腰のねぇ…と、適当に煽ってやれば。
負けず嫌いの皇子は易々と受けて立ってくださり、
丁度一番にやって来た、ディレクターらしき関係者へ、
自信満々な笑みを披露しての、打ち合わせと向かい合う現金さ。

「あの調子のよさは高校時代のお前を見てるようだよな。」
「何を仰有いますか。」

あれでなかなかの硬派だから、ヨウイチは。
苦笑を浮かべ、誰に似たのやらと付け足して、
テレビクルーたちへの飲み物やスナックの用意に取り掛かるべく、
バックヤードへ足を運ぶ銀を見送り、
いかにも外野というお顔にて、坊やとスタッフとのやり取りを眺めやる。

“…もう“坊や”って年でも見栄えでもないんだが。”

出会ったころは、それこそ
シャツの背中を片手で鷲掴みにして その身が持ち上げられたほど、
そりゃあ小さかった相手だったのにね。
こっちの腰までだって身長がないおチビで、
ひょこひょこパタパタ、よく走り、よく喋り。
本気で殴ってやろうかと思ったほど辛辣な、
アラ探しや揚げ足取りもお得意で。
それが今じゃあ、よくもまあ伸びた育った。
身長は175はあるらしいし、細身ながらも骨格はかっちりしていて、
何より…スタミナが物言うアメフトのゲーム、
攻守の別なくフルで出場してケロッとしてやがった、
化け物みたいにタフな奴で。

「…それじゃあ、インタビュー内容はこれだから、話すこと決めといてね。」
「判りました。」

おーおー、いい子のお返事、よく出来ましたね。
昔っからマスコミへの売りは上手い子で、
さすがはあの桜庭のマスコットとして、
写真集やらプロモーションビデオでのバイトをしていただけはあり。
切れ長の瞳、愛想よく細めて微笑って、
その姿だけだったなら、女性ファンを山ほど確保出来んぞ、ホント。

『…そんなもん、要らねーよ。』

いつだったか、じかにそう言ってやったら。
妙にぶすけて機嫌が悪くなったから、
二度とは言うつもりもないけどな。
濃緑のブレザーは、この春から通ってる泥門高校の制服で。
こういうカッコさせると決まるよな、こいつ。
渡された書類に視線を落としてる伏し目がちになった目許や、
声は出さない口許がかすかに開いたまま、何をか小声で呟く横顔が、
実は、寝室の外じゃあ一番色っぺーってこと。
気がついてやがんのかねぇ…。





  ◇  ◇  ◇



シャワーを浴びても落ちない精悍な匂いが、実は好き。
でも、そんなの言ってやるのは癪だから、

「もう加齢臭かよ、年寄り臭せぇの。」

そんな悪態をついてやれば、
言ってろなんて、尊大にも言い返すルイだけど。
おやっさんや兄ィ絡みのレセプションだなんだへ出掛ける折には、
用心のためって、よ〜く風呂へ入りの、
シャワーコロンくらいは使うかも。
いーんだよ、アウスレーゼだのタクティクスだの、
アラミスだのダンヒルだの、既製品の匂いに参るような単純女は
ミーハーなトコを突々けば あしらいようがあっからさ。
ルイからしか立たない匂いへ気づかれちゃ不味い。
半裸の上半身には、
隆と締まった肉づきを縁取っての、きれいに陰影がついていて。
みぞおちから腹にかけてはさりげない程度に割れてるのがまた、
口惜しいけど視線を奪われてしようがなくて。
そおと手を伸ばして、ぺたり、肌へと触れば。
よくよく鞣した革みたいに堅い張りがあっての、
でも不思議と、向こうから吸いついてくるような感触がして。

“普通はそれって、肌がきれいな女への言い回しだよなぁ。”

さすがは爬虫類だぜと、腹の底で思っていたらば、

「そぉらっ。」
「…わっ☆」

とんっと肩を突かれての、腰掛けてたベッドへ背中から押し倒された。
質のいい上掛けが、一遍には空気を逃がし切れないでの、
ふわ〜んとゆっくり、スローモーションで沈んでく。
そうまでクッションのいい中程へ、埋めるように押し込まれて。

「…っと。」

そんでも力づくは絶対しないし、殊に肩や肘には気を遣ってもくれてる。
今だって、肩を押さえ込もうと仕掛かって、でも、
それはヤバイってすぐさま気づいてくれて。
仕方がないから、胴でだけでの のしかかりで押さえ込むところが、
ずぼらなんだか律義なんだか。
そんな抜けたことばっかしやがる、大好きなルイ。
そろそろTシャツじゃ寒くねぇかと、
言ってる端から、その裾をめくってんのは誰なんだか。
その前にキスすんのが先だろがと、
眸の真ん前に来てた太っとい首っ玉へ、双腕からめてしがみつき。
ほんのり陽灼けした肌を目がけ、
かぷり、齧りついてやったらば。

「いててててってってって、痛いって。」
「オーバーだな。」
「いやホントに。お前、牙が凄いもん。」

試合前にヤスリで研いでるって言われてんの知ってっか?って?
ああ、独播の連中だろ?
あいつら、そんな手でしか人を煽れねぇ芸なしだからな。
くくくと笑って、歯型がほんのりついたところへ、
今度は唇だけで吸いついてやれば、

「…余裕じゃねぇか。」
「そっちこそ。」

知ってんだからな、ルイ、耳たぶとか案外と弱いんだろ?
だから、その近くをいじられんのも苦手。
ギリギリ、耳のすぐ傍を舐め上げてやれば、

「こら。」

………あ、ずりぃ。/////////
そんな間近から真っ直ぐ見下ろすのナシ。
顎を押さえてなんてのもずりぃ。
ルイの馬鹿力じゃあ、そう簡単に外せねぇじゃんか。
片手で顔を固定され、ベッドに釘付けにされちまって。
動けねぇ〜〜〜ってもがきかけたら、

 “あ…。//////////

半乾きの髪、ぱさりと一房だけ額に落ちて。
伏し目がちになった目許が無防備で、なのに色っぽい。
風呂上がりだからか、口許の緋色も少し濃くなってての、
男なのにその色気ってのは何だ、ずるいぞルイ。/////////
そろり近づいて来たお顔の、
柔らかそうな口許が、こっちの唇の上へと重なって。
ああ、この瞬間が実は好きだ。
柔らかい同士がくっついての、焦れったいままに喰(は)み合う口づけ。
取り込みたいのだか、奪ってほしいのだか、途中から判らなくなるほどに。
ちょっと獣じみていて、でも、

  ―― 欲しいって気持ち、一番判りやすく伝えてくれるから。

だからキスが大好きだけど、まさかに言えるわけなくて。
ネジ込み合ってた唇が離れる瞬間、ちょっとだけ伸び上がるようにして、
かりり…って、ルイの口許に咬みついてやる。

「…ってぇ。何しやがんだ、こら。」
「うっせぇな。浮気除けだ。」

口内炎みたいにしばらくは滲みるから、その間は俺んこと忘れない。
どんな美人に見とれてたって、
コーヒーが滲みれば、寿司の醤油が痛ければ、俺を思い出すだろが。

“こんなおまじないなんて要らないような、
 誰も見向きもしない、くっだらない男だったらいいのによ。”

ああでもそれじゃあ、俺がまずは惚れねぇか。
自分の我儘へ自分でくつくつと吹き出してから、
なんだどうしたと怪訝そうな顔をするルイに、
何でもないとかぶりを振ってから。
おでことおでこ、くっつけ合って…愛してるのキスからのやり直し。
甘いの苦手だったのにな。
何でまた、ルイの口許や指先が甘いのは、好きで好きでたまんねぇんだろ。
じゃれ合うような睦みの微熱が、やがては上がって止めどなくあふれ出すまで。
手に手を取って、現実からの逃避行を洒落込む二人。
今宵はどこまで行けるかな。
天窓から見下ろす煌月が、
そんな恋人たちを苦笑混じりに見下ろしていたそうな…。




  〜Fine〜  07.10.05.


  *突発的に書きたくなるのが、10年後ですが。
   ここんとこ、濡れ場絡みのが続いてるような。
   (だからこその“10年後”でしたっけ?・苦笑)


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